木村汎『プーチン 外交的考察』、青山弘之『ロシアとシリア ウクライナ侵攻の論理』

木村汎プーチン 外交的考察』藤原書店、2018年、693頁

 

青山弘之『ロシアとシリア-ウクライナ侵攻の論理』2022年、岩波書店、174+36頁

 

 

 

木村汎プーチン 外交的考察』2018年、藤原書店、693

 

ずいぶん大部の書物である。木村汎という人には、正論大賞の受賞や、人並み外れた著作の多さから、あまり良い印象をもっていなかった。ただしそれも著作を一冊も読まないままでの印象であったのだが。今回必要に迫られたこともあり、掲題著作を読んでみた。印象は変わった。

 この本は、木村のプーチン三部作の一冊であり、『プーチン 人間的考察』(2015年)、『プーチン 内政的考察』(2016年)と姉妹編をなす。分析は冷静で、厚みがあり、叙述は繰り返しが多いもののクリアである。内外の既存の研究への目配りも行き届いている。

 とくに、プーチン・ロシアのウクライナ政策、中国政策、中東政策の分析には示唆されるところが多い。なかでも、シリア問題の分析は、ロシアのシリア政策とウクライナ政策との交錯、さらにその交錯とトルコと西側諸国との絡みをとりあげており、貴重な分析となっている。現在のウクライナ戦争をめぐる国際政治の構図を考えるヒントを多く含んでいる。

 

 おもな章を紹介していこう。

 (第1章:主体)

今日のロシアの政治制度の基本をなすエリツイン憲法を概観し、大統領権限がどのように定められているかを見ている。実際の外交政策の決定は、安全保障会議が最高決定機関となっており、そこでは大統領の権限が圧倒的に強い。プーチンのもとでは、そうした機関決定ですらも形骸化しており、プーチンと同会議の一部メンバーでの決定となる場合が多い。しかも事案により呼ばれるメンバーが異なり、プーチン単独で決定されることも少なくない。

 ゴルバチョフエリツィンプーチンを対比して、それぞれの側近の置き方を比べてみている。ゴルバチョフは、インテリを置くことを好んだ。ヤコブレフやシュワルナゼがそうであった。エリツインは、周りに人を集めることを嫌った。スポットライトは己にあたるようにしたがったが、時には人も呼んだ。プーチンは、とくに外交では人を集めない。単独で決める。

 

 (第2章 装置)

外交の決定は、プーチン専制だとしても、その実施はプーチン自身がやるわけにはいかない。装置が必要である。装置としては、各国におかれる大使館・領事館が重要である。その最前線を担うべき大使館等のロシア人スタッフには旧KGB経験者が多く配置されている。要は、プーチンの覚えめでたき人材が配置され、はたらいているということだ。ちなみにKGBは、エリツィンのもとで分割されたが、プーチンのもとで再編強化された(FSB連邦保安庁)。

 長年プーチン外交を担う外相ラブロフについては、政策決定に関わることはとぼしく、あくまで忠実な歯車にすぎないとされる。

 

 (第3章、第4章 論理)

プーチン外交の基本はアメリカ一極体制に対抗すべく、ロシアのとりまきをつくることを第一としている。ロシア一極をつくるのはむずかしく、ロシアによる地域超大国圏の形成が目指されているとされる。BRICSG20上海協力機構(中国主導)に積極的に関わり、ロシア独自では「ユーラシア経済連合」の強化に力を入れている。

 

 ロシア外交の論理を考えるには9・11を逸するわけにはいかない。9・11はロシアをアメリカに寄せた。ロシアはそのときすでにチェチェンとの紛争を抱えており、対イスラムアメリカと協調する必要もあった。チェチェン侵攻へのアメリカからの非難を緩めるねらいもあった。経緯は複雑だが、アメリカとは、チェチェンへの攻撃の抑制と、軍拡のスローダウンの約束を交わした。ただしこの時ロシアは経済・財政とも深刻な危機におちいっており、外に勢力を向ける余力は乏しかったのであるが。

 潮目は、イラク戦争(2003年)を機に変わった。ロシアは反米の姿勢を強める。イラク戦争に反対したフランス、ドイツと語らい有志連合をつくり、反米の流れを強くしようとした。このあたりまでは合理的な外交を志向していた印象があるとしている。

 ところが、ほどなく旧ソ連圏でカラー革命と称される政変がつづいて起こる。木村によれば、これらは、生来「下からの反乱」を嫌うプーチンを刺激したとされる。

 ジョージアバラ革命 2003年

 ウクライナオレンジ革命 2004~5年

 キルギスチューリップ革命 2005年

 2010年 アラブの春

 これらをさかいに、「下からの反乱」・反抗へのプーチンの嫌悪と抑圧がロシア内政への異様なまでの統制へとつながってゆく。

 

 (第6章 武器輸出)

 いうまでもなくロシアは武器輸出国である。2000年の統計では輸出額は世界4位である。ちなみに国連常任理事国・5大国が世界武器輸出の70%を占めることは銘記されるべきであるとされる。

 

 中国への輸出。当初はロシアからの一方的輸出であったが、例によって中国は武器でもコピーの名人であり、模倣を警戒したロシアはしだいに中国への武器輸出を控えるようになっていた。ところが2014年のウクライナ危機により中国への再接近の必要が増し、最新鋭の戦闘機を売るようにもなっている。

 インドへの輸出。インドは世界最大の武器購入国であり、世界の全兵器輸入額の14.9%を占めている(2010-14年)。ロシアから言っても、武器輸出の30~40%はインドが占める。インドはまた一般の貿易でもロシアとの関係はかつてからたいへん濃い関係にある。

 

 ところが、ロシアの武器が中国・インドで大量にさばける時代はじょじょに去りつつある。そのこともあり、ロシアはいわゆる南の国への武器輸出を強化してきている。とくに注目されるのがインドネシアであり、東チモールをめぐる紛争に関わってアメリカとの関係が悪化したインドネシアは、その間にロシアからの武器の輸出を拡大してきている。マレーシアも似た状況にある。

 イランへは、当初ロシアはアメリカとの約束で武器輸出は控えていたが、2007年頃から多種の武器を売り始めている。

 

 しかしながら、近年はそのようなロシアの圏の形成も、ロシア製の武器の性能や価格面での優位性が薄らぎつつあり、思い通りにいかなくなっている。

 

(第8章 EEU ユーラシア経済連合)

 2012年大統領に返り咲いたプーチンが打ち上げたのが“ユーラシア連合”だった。具現化したのはEEUユーラシア経済連合の形成である。これはミニ・ソ連邦をめざしたものとされるが、いまだにロシア、ベラルーシカザフスタンキルギスタジキスタンの参加にとどまり。思い通りにはなっていない。基本は関税同盟を軸とした経済連合でしかなく、この5か国のGDPを総計してもEUの五分の一、中国の三分の一にも満たない。

 このプーチンのユーラシア構想を、アレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義に擬する向きもあるが、それは経済連携を出るものではなく、またユーラシアにまでまたがる国家群の地政学上の連携にすぎず、ある種の思想やイデオロギーのふ卵器となるような内実を備えるにはいたっていない。

 

(第9章 ハイブリッド戦争)

 この章のテーマは対ウクライナ政策である。タイトルが“ハイブリッド”戦争となっているのはいま一つよくわかない。ともあれ、2014年のクリミア併合以降のロシアのウクライナ戦略をあつかっている。

 プーチンウクライナ戦略については、東部2州(ルハンシク州、ドネツク州)のロシア占領地域に宣言された2つの国、ルガンスク人民共和国ドネツク民共和国をどうするかが焦点であった。それについて考えられた選択肢は、3つあったとされる。①これらノボロシアといわれる地域をロシアに併合する、②ノボロシアで住民投票を実施し①の下準備とする。③ノボロシアを独立させる。木村の見立ては、これら3つともプーチンの頭には上らなかったとされる。①の侵略はロシア経済が耐えられない。②はクリミアと当地は異なる。当地域にはクリミアほどロシア系はいない。③独立させれば、同じ構図にあるチェチェンなどの独立派を刺激する。ロシアはこれら3つはとりえない。結局、ウクライナをロシアの西側に向けての緩衝地帯とする。具体的には、ノボロシアには独立は認めず自治権を与えるかたちとし、西側に向くウクライナ西部=キエフへのトゲとしての役割を果たさせる。そのようなノボロシアとなるよう長期戦を構える。長期になるほどロシアの思惑にちかいものとなる。これが、プーチンウクライナ戦略だとする。

 木村の上記の見立ては、今日(2022年)からみれば半ばはずれた。現にロシアそのものがノボロシアに侵攻したのである。しかしながら、ウクライナ戦争の状況を鑑みると、長引けばロシアの考えた線に落ち着くだろうという木村の見立てが不気味なほどあたっていると考えられなくもない。

 

(第10章、第11章 中国、中国リスク

 資源大国ロシアは、中国にも天然ガスのパイプを設置し、ガスを売ろうとしてきた。2014年には一応の、ロシアからの直通パイプによる中国への天然ガスの供給に関わる契約が締結された。そこにいたるまでで10年を要した。これについては、ヨーロッパに供給しているガス価を吊り上げたいというロシアの思惑がはたらいていた。クリミア危機後はその構想はより現実味を帯びたが、中国としてもロシアの足もとを見るところがあり、できれば原油を買い叩きたいとの思惑も透けている。そうじてロシアが劣勢であるとする。

 中国は中国で、一帯一路戦略を進めようとしている。これと、ロシアのEEUユーラシア経済連合とは交差し、競合する恐れがある。中央アジアが草刈り場となる恐れもあるとしている。

 

 中露の間にはそれにもまして、深刻な問題が潜んでいる。ロシアのシベリア、極東の開発をめぐる問題である。ロシアにとって、当地の開発は長年の懸案である。しかしソ連時代を含めて歴代の政権で、それがちゃんとできた政権はないといってよい。プーチンとて例外ではない。シベリア・極東は経済・社会開発ではいよいよ抜き差しならない段階に至っている。人口流失によりもはや開発は危機的状況におかれているといってよい。その空隙を、とくに極東地域では中国人の出稼ぎ、流入で埋めている。中国人はロシア人よりも熱心であり、いいものも悪いものも持ち込んでくると言われる。ロシア誌のなかには、「極東はもはや中国なしには生き延びえないだろう。そしてロシアのものではなくなるだろう」という記事もみられるという。

 

 この2つ章の中国論は、ウクライナ侵攻後の中国のロシアへの姿勢をみるさいのヒントを多くふくんでいる。

 

(第13章 ブレクジット)

 ブレクジットはEUの弱体化だと捉えるならば、今のロシアにとっては都合のいいことだとみられるが、木村はかならずしもそうは考えない。ロシアの原油の輸出の88%、天然ガスの70%がEUに向けられ、EU天然ガスと石油の輸入の40%程度がロシアからである。一般製品に関してもロシア製品の輸出高の45%をEUが占める。ヨーロッパとロシアは切っても切れない関係にある。関係の悪化したクリミア併合後でも、プーチンサンクトペテルブルク経済フォーラムを開催し、そこで、「ロシアのEEUとEUがつながればこれほど強力で素晴らしいものはない」とリップサービスを行った(2016年)。

 ことほどさようにプーチンにとってはEUとの関係は重要である。EUが安定していることがロシアの安定にもつながるとの見方は、少なくとも今回のウクライナ侵攻の前まではプーチンの頭の中にあったと思われる。裏を返せば、そのことは今回のウクライナ侵攻後のドイツをはじめとするEU諸国の対ロシア政策・制裁がこれほど厳しいものとなるとはプーチンも読み切れていなかったことを暗示しているかもしれない。

 

(第14章、15章 中東1、中東2)

 この両章が私にとってもっとも印象にのこった部分といえるかもしれない。

  〈*以下のこの両章の紹介は、本書の出版(2018年)後の展開も織り交ぜており、また評者の予備知識を交えてあり、内容の忠実な紹介とはなって

いないことを断っておく〉

 2011年のアラブの春をさかいとするシリアのアサド政権の強圧的内政の展開は国際的耳目を集め、国連も武力介入を決議するくらいであった(2013年後半)。プーチン・ロシアはその決議に反対の意を示した。その理由は、シリアとロシアの関係が密であるからとは必ずしもいえない。ロシアにとってシリアは武器の輸出対象国であったが、その占める割合は小さく、ロシアの国連での高踏的姿勢を説明する根拠にはならない。木村は、このシリア問題へのロシアの態度にこそ、プーチンの「下からへの反抗」を嫌悪する性向の発露がみられるとする。すなわち、IS Islamic Stateなどによる下からの反乱に悩むアサド・シリア政府へのプーチンなりのサポートであったとみている。

 

 プーチン・ロシアは結局、2015年9月には自らシリア国内への空爆を開始することになるのであるが、そこに至るまでのアサド政府と米英諸国との国際協議へのプーチンによる仲介はあざやかであった。2011年当時、米オバマ政権は、化学兵器の使用をガマンの限界と明示してのシリアへの不介入を基本としていた。それを受けてプーチンはアサドに化学兵器の不使用を約束させていたのである。有効期間は長くはなかったがその点ではプーチン政治は評価できる。

 2015年のロシアのシリア空爆の開始については、本書には詳細な説明はない。ロシア政治に関しては次のような影響があったされる。ロシアはこの時期はノボロシアをめぐるウクライナ問題でも出口を探っている時期であり、またロシアの国内経済も停滞気味であった。そんななかシリアへの空爆プーチンの支持率を劇的に上昇させた。クリミア併合の時でさえ政府支持率は80%程度であったのに対して、シリア空爆時の支持率は90%に達した。国内政治の延長に国際政治があると考えるプーチンの発想に合致した事態であった。

 そのことがロシアをしてシリア問題へのイニシアティブを握らせることへの強い誘因となった。ちょうどシリア問題を挟んで反対の位置に坐るはずのアメリカは、トランプ政権であり、たしかにトランプはアサドが化学兵器を使ったとされる2017年4月にシリアに空爆を加え、介入の気配を見せたが、結局はそれっきりであり、イニシアティブはロシアに降りた。

そうした経緯のなか、ISなどへの掃討が一段落した2020年以降は、ロシアの国際政治面でのステイタスの維持にシリアを梃子としようとするプーチンの戦略が模索されるようになってくる。①ロシアもシリアから撤退プログラムに入る。②アメリカも同様であるべきだ。③ロシア主導でシリア和平を進める。③ロシアはシリアの軍事施設を利用し、経済権益を維持する。

 シリア問題に関しては、上記のようにプーチンの勝利に近い構造ができたと言ってよい。EUもシリア難民問題を抱える以上、ロシアの出方を無視できないようになっている。そのことが波及して、ウクライナへのロシアの取り組みにも、意見を言いづらくなる面があったとも言えなくない。

 

 トルコとロシアの関係について。トルコの存在がシリア問題、ひいてはウクライナ問題もより複雑なものにする要因となっている。

 もともとロシア・トルコ関係ほど戦火を交えた歴史を有する関係もまれである。さらにトルコはNATO加盟国であること、大量に発生しているシリアからのからの難民のヨーロッパへの流入の調節弁にあたる国であること、などがトルコの存在感を重くしている。 

 トルコはクリミア併合のさいは各国によるロシア制裁には距離を置いたものの、ロシアの策動は容認できないとした。その後のロシアとトルコはシリアへの対応をめぐって対立する。ロシアは上述したようなシリア政治のイニシアティブを握るべく努力をしようとする一方で、トルコはシリアと長い国境を接する地政学上の要請からしばしばそれに背反する。そして今日ではそのロシア・トルコ関係はウクライナ戦争への両国の位置取り(とくに黒海での戦闘や穀物輸出、ロシア・ウクライナ間の調停など)にも少なからず影響することになる。

 トルコ・ロシア間を考えるさいの要点は、先のトルコの地政学的位置、自立を求めるクルド民族へのトルコによる弾圧、シリア・アサド政権へのロシアによるテコ入れ、クルドとアサド政権の連携、アサド政権とISとの闘いなどが絡み合って輻輳を極めている。本書の刊行後、アサド政権によるISの掃討はいったんは成功したわけだが、その後もくすぶっている。単純に言えば、ロシア・アサド政権・クルドの連合と、反アサド勢力とトルコおよび西側との対立となるが、単純ではない。とくにトルコの出方と位置取りはそうである。

 ロシアは例によって資源を元手に働きかける戦略を駆使しようとして、トルコへの天然ガスの直接供給ルートの建設「トルコストリーム」構想をちらつかせている(*)。他方で、両国には紛争含み事案もこと欠かない。2015年11月には国内でのロシアの機の飛行に怒ったトルコが戦闘機を撃墜しプーチンが激怒し一触即発の状況に陥った。その時は2016年8月にエルドアンがロシアを訪問し一応の手打ちを行い、「スルタンとツアーの会談」と称されたことなどもある。いずれにしても、このようなロシア・トルコ関係は関連諸国の政治状況に大きく影響する。とくにどの局面でも関わりを有することの多いトルコの出方はきわめて大事である。

 (*)現在この天然ガスルートはすでに開通している。

 

(注記)この木村著の紹介は7月中頃執筆した。

 

 

 

青山弘之『ロシアとシリア-ウクライナ侵攻の論理』2022年、岩波書店、174+36

 

 この本は数少ないシリアの専門家によるシリア内戦と今年勃発したウクライナ戦争に関する研究書である。前半は、シリア内戦の研究である。その歴史的背景と現状を丁寧に解説しており、この内戦がいかに複雑なものであるかを教えてくれる。中心にシリア政府軍と反政府諸派が位置するものの、それを大国であるロシア、トルコ、有志連合(アメリカ、イギリス、フランスなど)にアルカイダ系、クルド武装組織などが入り乱れ、シリアという場所で大国と諸組織のさながら代理戦争進行している様子が描かれている。

 本書の後半は、シリア内戦とウクライナ戦争の連動関係の分析にあてられている。残念ながら、この後半の叙述は、必ずしもすっきりしておらず、実証面でも厚みにかける印象が残る。

 全体としての著者の主張は、ウクライナを第二のシリアにしてはならないということ

であり、その問題の要の位置にあたる論点がシリア内戦とウクライナ戦争の連動性の分析にあるという構造に本書はなっている。

 「ウクライナを第二のシリアにしてはならない」という主張には賛成する。たしかに内戦に大国が介入して、混迷を極めつつある点からすれば、ウクライナもすでにシリア化していると言えなくもない。しかし、シリアとウクライナとでは、地政学上の位置が異なる。シリアほどウクライナは元来諸勢力の通り道にあるとはいえない。ウクライナ戦争はロシアが侵攻したという単純な事実が太宗を占める。ウクライナ戦争の問題の解きほぐし方はシリアのそれとは角度を変えてよいのではないか。

 第二の論点の、シリア内戦とウクライナ戦争の連動性に関しては、本書は、詰めが甘い。本書でその連動性として論じられているのは、ロシアやトルコが介在し、シリアの兵士がウクライナに兵士や傭兵(ロシア側としても、ウクライナ側としても)送られている、送られようとしている。連動性として指摘されているのはこれがほぼすべてある。本書の執筆時点では、そのような兵士や傭兵はまだ数も少なく、少なくとも戦況を左右するような要素にはまったくなっていない。この連動性という論点には、たいへん重要である。しかし本書ではもっと厚みのある論点の提示と展開、および実証が求められているのではないか。